『奥大和』とは、奈良の南部・東部に位置する、広大で奥深い山々に包まれた土地のことである。
そのうち、千本桜で名の知れた『吉野』、金色のススキ野原が広がる『曽爾高原』、温泉と湧水群、そして修験道・大峯信仰の登山基地でもある天川村の『洞川地区』。
この三拠点を会場とした〈MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館〉は2020年にはじまり、今年3年目も開催される運びとなった。
歩く芸術祭
いずれの会場でも歩いて約5時間ほどのトレイルの中に作品が展示されている。『雄大な自然を体感しながら、そこに溶け込む参加アーティストの作品を心に写しとる』といったコンセプトの芸術祭だ。
自然の中にアート作品を展示するイベントは他にもある。
が、〈歩くこと〉を中心に展開していることが、この芸術祭の特徴なのだ。
なにより一見のツーリストやハイカーにとっても、奥大和という土地は〈そこにある暮らし〉と〈そこにある自然〉が極めて近く、その境界は薄らいで感じられる。
そこへさらにアート作品が溶け込むことで、普段なら素通りしてしまうような光景にも、自然と視線や意識が誘導され、〈暮らし〉〈心〉〈自然〉がシームレスに縫い合わされてゆくようだ。
MIND TRAILには、歩みをスローにして土地と対話し、〈繋がり〉を見出すことを楽しむような雰囲気がある。そして、はたと立ち止まった時、そこにある自然に己が映し出されているように感じられる。
そのきっかけとなる作品たちが、緩衝剤としての役割を果たしているのだろう。
〈MIND TRAIL 奥大和 心の中の美術館〉のロゴ
イベントの顔とも言えるロゴが刻まれたポスターを見かける度、その存在が心の中に刷り込まれてゆく。シンプルながら、印象的なのだ。
いずれも奥深い緑の光景を背に、幾何学模様が描かれる。まるで、額縁を通して奥大和を眺めているみたいだ。
左から
- 2020年 〈◯〉
- 2021年 〈△〉
- 2022年 〈□〉
年を重ねるごとに、環が繋がりに発展し(もしくは手を取り合い、互いに引き合い)、さらに広がっていくようなイメージだろうか。
ちなみに2021年のロゴ背景は、なんとも涼しげな、水底まで透き通ったせせらぎだ。これは十中八九、天川村の光景に違いない。
TRAILへの憧憬
3年目にして、ようやくMIND TRAILという芸術祭を意識して歩き始めた。
とはいえ、明確な出発点など無かったのかもしれない。
2020年
開催初年度はMIND TRAILの会期終了が近づく頃に知って興味が湧いたものの、機会に恵まれず情報収集に終始した。
2021年
イベントの存在は忘れてしまっていたが、夏から秋にかけての季節の変遷を眺めに、度々天川村へ足を運んでいた。その中で土地の人との会話があり、知らずのうちに吉野と天川のトレイルは少し歩いていたことを知った。
確かに三角印のポスターをあちこちで見かけるし、何かあるなとは思った。
そうか、アレがソレかと合点がいったわけだ。
2022年
シルバーウィークに立山の称名滝と大日連峰の紅葉登山を楽しみにしていたが、台風14号の接近とその動きの不確かさ、ついでに自身の絶妙な不調からくる不安ゆえに断念した。
ただ、ここではない、何処か遠くへ行きたかった。
立山よりはもう少し近場でありながら、街を離れて山々の懐へ飛び込めるような場所。そんな土地はないかと考えを巡らせているうちに、ふと奥大和のMIND TRAILに思い至る。
9月17日に始まるも、直後に台風14号の影響で連休中に予定されていたイベントが中止になるなど影響を受けているらしく、あの山々に囲まれた土地のことが気になった。
思い立ったが吉日。早速日帰りで吉野へ。
これが第一歩となった。
MIND TRAIL Sep. 2022 -Yoshino- / 米粒遊歩さんの高城山(奈良県吉野郡吉野町)の活動データ | YAMAP / ヤマップ
参考までにYAMAPにあったルートマップをダウンロードして歩いてみた。とはいえ、道々に分かりやすく道標があるので、恐らく迷うことはないだろう。
それに吉野へ行くならば、見に行かねばなるまい。
以前『吉野桜の奇妙な同居人』で触れた、あの樹を。
季節ごとに移ろう姿を見に行こうと、心に決めたMYツリーなのだ。
※話題が前後し、入り乱れがちになるかもしれませんが、MIND TRAILの記事も順次公開予定です。